働くひととホワイト企業を応援!志ンガー社労士の竹内隆志が音楽と講話で労働法を解説します

ホワイトな志ンガーズの世話人社会保険労務士竹内隆志が歌と講話で楽しく労働法について連載しています。

ダンダリンでわかる労働法(5) 退職の自由と退職願、退職届

ドラマの冒頭、ある会社に指導監督に訪れた、南三条と段田凛。

女子社員の制服のスカート丈が短いということで、長さのチェックを始めるが、これは何に違反しているのか?がよくわかりません。(笑い)段田凛が言うように、女子社員のスカート丈が短いと男性社員が劣情をもよおして職場の仕事の能率や労働環境が著しく低下する?ということでしょうか?(笑い)

そもそも、アルバイトの方の休憩時間が守られていない?ということで指導に訪れたのがきっかけでした。

休憩時間はパート・アルバイトを問わず全ての労働者に適用されますね。法律的には6時間を超えると休憩時間を与えなければならず、最低でも45分間、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を労働時間の途中に与えなければなりません。途中とは終業時刻の1時間でもいいのですが、就業時間後に設定することはできません。一般的には労働時間8時間とすれば、お昼の休憩に30分、10時に15分、15時に15分といった定め方でもOKですし、お昼にだけまとめて45分以上であれば法律的にはOKです。

1時間を与えるケースは多いと思いますが、8時間の労働時間を超える場合にということですので、ジャスト8時間であれば最低45分でよいことになります。終業時刻を超えて残業する場合などによくいったん休憩を30分程度取って(お昼に休憩を取っているとして)それから残業するケースはあるようですが、8時間を超えても途中で1時間以上の休憩を取っていれば引き続いて労働してもよいことにはなります。ただ労働者の健康管理や安全管理面でいえば、適宜に休憩をとって置くのは望ましいとは思います。 

さて第5話の争点は「退職の自由と退職願と退職届の違い」です。

人気パティシェの男性が事業主から使用する食材を落とすレシピを強要されて、そのこだわりから辞めさせてほしいと訴えるが、なかなか辞めさせてくれないという相談にこられました。

労働基準法には使用者が労働者を解雇する、つまり使用者側からの労働契約の打ち切りは労基法第20条に規定があるのですが、労働者側からの労働契約の打ち切りは規定がありません。というのも、そもそも労働基準法は労働者が守られる権利について使用者に遵守義務を定めたものが多いため、こうした契約のことについてはそもそも民法に定められています。

民法第627条の規定は、期間の定めのない雇用の解約の申し入れについて定められています。期間の定めがないとは、正社員かあるいは無期のパート、アルバイトの方の雇用契約になります。期間の定めがあるとは、有期の雇用契約、つまり有期契約社員などの方の雇用契約になります。

労働契約はそもそも当事者の双方が合意により契約を結んだものですが、その一方の当事者からいつでも解約の申し入れをすることができます。ただし使用者側には民法の特別法たる労基法で使用者から解約する場合(解雇)には30日前に予告するか、あるいは30日以上の平均賃金を支払うことを義務づけています。

それ以前に労働契約法第16条において、解雇が合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となります。

労働基準監督官の権限が及ぶのは、労基法の規定に違反している場合であって、労働契約法に違反すると思われても,それを直接的に指導することはできません。

一方労働者側からの労働契約の解約の申し入れの場合の有効となる契約終了日ですが、給与の定め方によって異なります。月給制による場合は、月の前半に申し出た場合はその月の末日、月の後半に申し入れた場合は翌月の末日となります。時間給、日給制の場合は期間による報酬の定め方でないので、解約の申し入れの日から2週間を経過すると終了できます。

よく就業規則には労働者側の義務として自己退職などで辞める場合には1ヶ月前に申し出るよう定められていますが、先の民法の規定からいくと月給制の方で就業規則の定め方が違反となるケースが出てきます。

無用なトラブルを避ける点から上記の内容を補足する規定を入れておくことよいでしょう。顧問の社労士にこのことを相談してもわからないような社労士であれば、ちと要注意!です。(笑い)

 

会社に連絡もないまま行方不明のまま会社に出社しない社員との労働契約を打ち切りたいケースが出てきますが、解雇として処理していくとどうにもできないことになります、何故なら申し入れの意思表示が相手に届かないから無効となるので要注意です。

こうしたリスクを避けるには、あらかじめこの事態も想定して上記の申し入れの場合の有効となる契約終了日までの期間を見越して50日程度経過すれば自動的に契約が消滅するという規定のしかたをしておくとよいでしょう。

労働相談にあたっていると、労働者の方で辞めたいと思って手続きをとられている場合でも「退職願」で辞表を書くケースを良く目にします。これでは使用者側に承諾を求める「合意解約の申し入れ」ととられることになり、使用者側が認めたくない場合はいつまでたっても埒があきません。「退職届」にすると労働者側からの労働契約の解約の申し入れの意思表示となりますので、一定の期間が経過すれば使用者が認めなくても退職できる(契約終了)ことになります。

民法第628条では、有期雇用契約を定めた場合であって、やむを得ない事由以外の当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負うとされます。また労基法第137条では1年を超える場合には有期的事業に関するものを除き、1年を経過すればやむを得ない事由がなくてもいつでも辞職できることになります。 

ドラマでは店の中心的なパティシェの男性は正社員であったと思われますので、これらの適用を受けないため民法第709条の不法行為による損害賠償によることを使用者側が持ち出したのかと思われますが、それにあたる事実関係もなければ、訴えを起こしてもたんに嫌がらせでにすぎないでしょうが、裁判となるとやはり普通の人にはトラブルをなるだけ避けようとする抑止効果になるようですね。

使用者側に入れ知恵をした社労士のねらいもそこにあったようですが・・・。

 

最終的には相葉社労士事務所の女性社労士の所長がwinwinでまとめられたようです。一般的な妥協策としてはそれがまず無難であると思います。それと大事なことは、いくら労働者側に辞める自由があるといっても、最低限の引き継ぎをする義務は残っている思います。よく退職日までまったく会社に出てこない社員がいるようですが、それも労働義務を有する雇用契約上どうかなと思われます。