ダンダリンでわかる労働法(10)社労士の品位と労働基準監督官の職務
ダンダリンもいよいよ次回(第11回)で最終回らしい。残念だ。
ここにきて、あの冷徹そうな段田凛が、一人の女性として苦悩するか弱い姿がやっと出てきたように思う。これまでは、ダメなものはダメ、ルールを守ることを会社に要請し毅然たる労働基準監督官として職責をまっとうしている姿があったせいか、やや強面の女性はやはり敬遠されるのか、このドラマの視聴率は予想に反して低迷しているようだ。
ところが、ここにきて竹内結子演ずる主人公の段田凛。南三条が罠にはめられた原因が自分にあることで、本来の監督官の職責を全うするのか、一人の女性として大切な人を守ることを優先するのか、悩み苦しむ姿が浮き彫りにされ、やっとテレビドラマ風になってきたといえる。これまでは「ダンダリン」の中で出てきた労働法のことを主に解説してきたのだが、今回は少し視点を変えて、社労士と労働基準監督官の職責ってなんだろうということを考察してみたい。
ダンダリンの中で、相葉社労士事務所で働く元労働基準監督官の胡桃沢社労士の法の抜け穴を使い、いわゆる悪知恵を企業に指南している姿に前から大いに疑問を感じている。
現役の社労士として言わせてもらうと、世間一般の方にこれが社労士かと思われてしまうのは大いに困る。
最近では合格率が5.4%という難関の資格。実際には誠実に真面目にきちんとダメなものはダメと企業の経営者等に助言している職業意識の高い社労士がほとんどであろう。
その社会保険労務士の職責としては、社会保険労務士法第一条の二に、「社会保険労務士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない。」と規定されている。
ドラマの中で胡桃沢という若手社労士が段田凛に向って「あなたに死んで欲しい。」何度も「死んで欲しい。」と恐喝するような場面があったが、これなどは社労士の倫理基準等に照らしても大いに問題発言ではないかと思う。
通常であれば当事者から社労士会に苦情申し立てがあってもしかるべきかもしれない。
また胡桃沢社労士がアップルワークスの件で話があると偽って段田凛を深夜カフェに呼び出したり、かつての同僚、南三条が関与先の企業の調査をしていることを喋ったり、仕組まれた罠にかかって困っていることなどを知っていて、それ段田凛に漏らすことなどは、社労士法第二十七条の二の「守秘義務」にも抵触しているともいえる。
いずれにせよ、社会保険労務士には倫理規定があり5年間に一度倫理研修の受講が義務付けられており、会としても非常に重きを置いているのだ。
労働基準監督官の職責といえば、段田凛がドラマでも職務を頑なに忠実に行っているように、日本の労働関係法令に基づいて、あらゆる種類の事業場に立ち入り、労働基準法や労働安全衛生法等を遵守させるとともに、労働条件の向上を図っていくことをその任務としている。
ILO81号条約の労働監督の第12条では、その労働基準監督官の権限が書かれている。つまり、立ち入り検査、調査、検査又は尋問、物品の収去などだ。ILO国際労働機関は、労働条件の改善を通じて、社会正義を基礎とする世界の恒久平和の確立に寄与すること、完全雇用、労使協調、社会保障等の推進を目的とする国際機関であり、その条約により労働基準監督官の権限が基づいているのだ。
先ごろ、監督官の人数が抑制されているということを聞いて、ある社労士が自分達国家資格者の活用を図れとある新聞に投稿記事があったようだが、これに元労働基準監督官の方が反論した投稿記事を載せておられたのを拝見した。
当然のことだと思う。監督官の成り立ちと社労士制度が出来た経緯はそれぞれ違いがあり、たんに労働法令に精通しているだけではないのだから。
第十話を視聴してそんなことを感じた。社労士と労働基準監督官。立場は違うが、働く人を守り、職場環境を改善すると言う意味では、それぞれの果たす役割は大きいと思う。
ダンダリンでわかる労働法(8)(9)は業務多忙のため執筆できていません。m(..)mまた時機をみて書きたいと思います。